記事一覧

銀行がクレジットカードを発行できない理由

なかでも金融庁は、クレジットカード会社の再編には熱心であった。というのも、クレジットカードは米国では銀行の収益の中心事業になっているのに対して、日本では銀行が直接手がけることができない特殊な分野になっていたからだ。一九六〇年代にクレジットカードが日本に上陸したときに、大蔵省は銀行にその権利をもたせようとした。ところが、当時、信販会社が力をもっていたために、民業圧迫になるとして、通産省が反対。銀行は子会社を通じてしかクレジットカードを発行できない決まりになったのだ。それで生まれたのがJCB、三井住友カード、UCカード、MCカード、DCカードといった銀行系カードである。

こういう経緯があったため、金融庁(=元大蔵省)は、長年に亘って、銀行業務へのクレジットカードの統合に力を注いできた。その夢がやっと実現することになったのだ。銀行はこの統合によって大きなメリットを得る。クレジットカード会社がもつ顧客情報を活用して、銀行本体がもつさまざまな金融商品をクロスセルで販売できるからである。収益の大幅アップが見込めるのだ。一方のカード会社にとってもメリットはある。最近は加盟店手数料が下がって収益が減り続けているのに加えて、システム投資が年々増大しているからだ。その援助を得るためにもメガバンクの手助けは必要になっている。○七年、三菱UFJグループのカード会社の統合が発表された。

○七年四月にニコスとUFJカード、DCカードがひとつになって、三菱UFJニコスという日本一のカード会社が正式に誕生したのだが、その記者会見の席上で、三菱東京UFJ銀行の役員のひとりが、「これからはクレジットカードも信託、証券と並んでわが行の主要業務のひとつに位置づけられるわけで、強力な営業体制をしける」と感慨深そうに述べていた。五十年ぶりに米国本家のような正しい形の体制が整うわけで、収益の向上は期待できるし、歓迎しているようだった。しかし、個人的にいえば、銀行本体に組み込まれることで、クレジットカードの魅力がストレートに増すかというと、それは疑問だろう。むしろ、銀行に入ってしまうと、売り買いの現場(流通系、信販系)を離れるために、その魅力が半減することが多いのだ。実際にニコス(旧日本信販)は、三菱UFJグループに入ってから、その存在感を薄めているように感じられる。

ダイエー系だったオーエムシーカードが親会社の都合で三井住友グループに売られたが、グループ入りして個性を埋没させないためには相当の努力がいるだろう。みずほグループと関係を深めたクレディセゾンは、UCカードからの出向者を受け入れるようになってから、肌合いの違いを痛いほど感じており、それがオリックスとの提携に発展した理由ともいわれる。しかし、内情はともかく、形としては、金融庁が望んだ通りに進行しているわけで、改革の成果があがりつつあるといえる。このような再編劇は現在、最終局面を迎えており、すでにカード会社も三グループの傘下にそれぞれ収まり、メガバンク主導でカードビジネスが展開する体制が整いつつある。

キャッシング申込み 即日審査

金融自由化を強力に推進

金融庁はその政策の基本姿勢として、それまでの大蔵省が取った護送船団方式を撤廃し、自由化に重きを置く米国型の金融政策を採用した。バブル崩壊によって金融機関は大量の不良債権を抱え込み、機能停止状態に陥り、その後十年以上に亘って深刻な不況を招いた。それは長い間の大蔵省の護送船団方式がもたらした災厄だったという認識である。この疲弊した金融機関を再生させ、世界と戦える体質に変えるには、「フリー」「フェア」「グローバル」をモットーとする金融自由化政策を採用しなければならないと宣言した。すでにイギリスや米国でも「ビッグバン」「メーデー」と称して同じような金融政策を導入し大きな成功を収めていた。

その改革は、「金融システム改革」とか「日本版金融ビッグバン」と呼ばれるが、金融庁はこの改革を果敢に実行に移した。具体的には米国型の金融資本主義をめざし、国際市場で戦える自己資本比率の高い巨大銀行(メガバンク)をつくり、そこに信託、証券、保険、クレジット、ローンなど多くの金融機能を集中させて収益をあげる体制を作ろうとしている。そのために、シティグループやVISAインターナショナル、ゴールドマン・サックスなど金融各分野のナンバーワン企業に指導・アドバイスを仰ぎ、国際化・自由化に努めているのだ。スタートから十年以上たって、その改革は、徐々に実を結びつつある。改革のポイントは、クレジットカード絡みでいうと、三つある。

①世界で戦えるメガバンクを作るために、公的資金を注入して不良債権処理を積極的に進め、九行あった都市銀行を再編・統合によって適正規模の三グループまでに減らした。

②クレジットカード会社や消費者金融専業者といったリテール分野のノンバンクを積極的にメガバンクの傘下に誘導した。

③金融市場の浄化のために、中小規模のノンバンクの整理・淘汰を進めた。貸金業法改正によって業者の選別を加速するとともに、信用情報の一本化によって、リテール分野での新しいビジネスの可能性を探ろうとしている。

以上の三点が、金融庁が行なった改革(現在、進行中のものもある)の骨子である。

金融庁は何を考えているのか

「昔は大蔵省、今は金融庁」。我が国の金融業界を監督・指導する金融庁は、金融事業者から最も恐れられている存在である。銀行も消費者金融、カード会社も、みなその意向を忖度しながら行動している。金融庁は一体何を考えているのか。電子マネーが嫌いらしいことはわかった。電子マネーが普及すると、国家の「信用創造」を損なう危険な存在になりかねないという理由で警戒を強めている。その他にもグローバルスタンダードから外れたローカルな規格というのも気に食わない。現在、日本で普及している電子マネーはほとんどがフェリカ方式である。

応答速度が速いなどの特長はあるが、残念ながらISO(国際標準化機構)の規格を取っていない。そのため世界的にみると、日本と一部東アジアで利用されているにすぎないのだ。だから、グローバルスタンダードを標榜する金融庁は、こうしたローカルな規格に対しては冷淡である。欧米で使われているVISA、マスターが推進するISO規格に準じた電子マネー(たとえば、ペイウェイブやペイパス)を持ち込むのがベストとみているようだ。ただ、金融庁は電子マネー業界、ポイント業界に関しては、すでに述べたように強い権限をもって臨めない。そこで、電子マネー規制法を一刻も早く整備して監督できる状況を作ろうとしている。とにかく、ローカルな規格は我慢ならないのだ。

国際的に通用するものだけに価値があるのであって、世界で使えるかどうかが重要なのだという態度を貫いている。一九九八年に旧大蔵省から分かれる形で、総理府の外局として設置された金融監督庁が金融庁の始まりである。二〇〇〇年に金融庁に改組。○一年の中央省庁再編により、内閣府の直接の外局となって権限をさらに強めた。民間金融機関に関する行政は伝統的に大蔵省(現財務省)が担ってきたが、ノーパンしやぶしゃぶ事件(一九九八年)など官僚・金融機関の不祥事が起こる中で、当時の大蔵省銀行局や証券局のうち、民間金融機関などの検査・監督権限を分離して設置された。その後、金融制度の企画立案に関わる事務などを統合して現在に至っている。

ポイントサービス全面見直しへ

金融庁のその思惑を察知してか、クレジットカード会社の中にも、電子マネー、ポイントへの過剰傾斜を見直すところがでてきた。最初に動いたのは業界大手の三井住友カードだった。同カードはANA提携カードではJCBと並んで多くの会員を抱える有力ブランドである。そのため、ポイントをマイルに交換するたびにANAに支払う手数料も莫大な金額にのぼっていた(1マイル交換のたびに数円のお金を払って利用者への便宜を図っていた)。その金額が年間約四十億円にのぼったという。カード会社の経営環境は日増しに厳しくなっている。○七年に月原紘一三井住友カード社長は伸び悩む手数料収入や増え続けるシステム投資など不如意になる一方の状況を受けて、経営の全般的な見直しを行ったが、その中でポイントのマイルへの交換経費が多額にのぼることに着目した。

とくに、ANAマイルへの交換手数料の金額をみて驚いた。「一企業への協力費としては、いくら何でも多すぎる」。たかがおまけを付けるのに、これでは払いすぎだ。何とかならんのか、という心境になるのも経営者なら当然だろう。すぐにポイント交換比率の見直しを命じた。三井住友カードの社長は三井住友銀行の副頭取が代々就くしきたりになっている。三代前の玉井英二氏、先々代の加藤重義氏、先代の栗山道義氏、そしていまの月原社長もその流れであって、根っからのバンカーだ。その発想からすると、マイルに大金を使うなどというのは「無駄」以外の何ものでもない。クレジットカードの本分は、決済にある。

より速く、より正確に決済することが第一の使命であって、それ以上でもそれ以下でもない(これはVISAインターナショナルの理念でもある)。銀行にとってのクレジットカードとはそういうものなのだ。それなのに、ポイントやマイルといったおまけにうつつを抜かすとは何事か、と考えたのだ。三井住友カードは、社長命令で、○八年四月にポイントサービスの大幅変更を行なった。同カードは1ポイント(一千円利用)でANA10マイルと交換していたが、これを1ポイントで3マイルと、その割合を大幅に引き下げたのだ。交換率が三分の一まで圧縮されたのだった。これまでANAのマイルを国内航空券に換えるには最低1・5万マイル必要で、それを貯めるには三井住友カードで百五十万円の買い物をすればよかった。

ところが、四月からは五百万円の買い物をしないと獲得できなくなってしまった。これでは何年かかっても航空券は手に入らない計算になる。さらに、これまでエディヘのチャージでポイントがついていたが、三井住友カードはその特典も廃止してしまった。買い物をするわけでもなく、電子マネーにチャージするだけでどうしてポイントを付ける必要があるのか、という考えだった。これも正論である。こうした「改悪」によって、三井住友カードを使ってマイルを貯めていた陸マイラーたちは大きな打撃を受けた。ネット上には、ポイントバブル崩壊が始まったと大げさに書き込む人々もいた。

日銀券が食われる日

金融庁が急いで規制に乗り出そうとする背景には深刻な危機感があると私はみている。つまり、JR東日本やドコモのような巨大企業が電子マネーを発行することで、それがいつのまにか企業通貨(疑似通貨)として一般にも広く流通しかねない、という懸念をもっているのではないかということだ。スイカはチャージによって、すでに巨額の資金を滞留させているという。JR東日本がそれをどのように活用しているかは不明であるが、その膨大なキャッシュフローで投資や貸出しを始めたなら、これは銀行に近いものである。

さらに、ポイントが次々に現金に換金される風潮が一層広まれば、これも脅威である。日本の通貨制度が根底から崩れることになる。実際、日銀券の発行(マネーサプライ=通貨供給量)がここ二~三年、減少に向かっており(とくに五十円以下の小額貨幣が著しい)、それが電子マネーの急速な普及が原因といわれる。日銀が発表した二〇〇七年の資金供給残高(マネタリーベース、平均残高)は前年に比べて七・八%減の八十八兆六千三百五億円となった。マイナスは二年連続している。

さらに、ポイントも交換によって、現金に換えられるものが増えるなど、疑似通貨的な位置づけになっている。このまま野放しにしていると、国家の根幹である「信用創造」を侵す事態にもなりかねないと電子マネーだけでなく、ポイントも含めた包括的な規制を急ごうとしているのだ。オーストリア生まれの経済学者フリードリヒ・ハイエクが「紙幣や貨幣を造幣するのはもはや国家の専業事業ではなく、貨幣鋳造を民営化すべし」と主張したことがあったが、そんな主張が電子マネー、ポイント問題をきっかけにまことしやかに叫ばれでもしたら大変なことになる。

そう思って規制を急いでいるのかもしれない。以上のように考えると、これから成立する規制法は、電子マネーとポイント事業者にとっては、かなり厳しいものになりそうだ。サーバー管理型電子マネーにも供託金を義務づけるのはもちろんだが、金融庁の息のかかった業界団体をつくり、そこが金融庁の代わりに取り締まりを実施する。いつでも立入検査のできる体制をつくり、ルールに違反したら最大一億円の罰金を科する。いかがわしい業者を締め出すために資本金を引き上げ、最低五千万円以上とするなど厳しい内容になるだろう(同様の規制は「貸金業法改正」で実施済みであるからだいたいの想像はつく)。こうしたことをあわせて考えると、現在の電子マネー、ポイントのブームは近いうちに急ブレーキがかかる可能性が高い。

ページ移動